エレナの想いと決意、そして旅立ち


いつも側にいてくれた兄様。

いつも一緒に遊んでくれた兄様。

一人で寝るのがイヤだと言ったらベッドに入れてくれた兄様。

一人でトイレに行くのが怖いと言ったら私が出てくるまで声をかけてくれた兄様。

私がズールサーカス団に連れ去られた時、助けに来てくれた兄様。



私は兄様が大好きだった…。
うぅん、今でも大好き。
もちろん兄としてだけれど。

兄様がナルのこと好きなのわかってた。
ナルも兄様のこと好きなのわかってた。

もちろんナルのことも大好き。
ナルは優しくて可愛くて、よく気が利いて、兄様と一緒によく遊んでくれた。



そんな兄様とナルが結婚することになった。

2人のことは大好きだけど、

兄様がとても嬉しそうにしているから、私も幸せな気持ちになるけれど、

ナルが恥ずかしそうにしながらも、兄様と一緒に嬉しそうに微笑んでいるけれど、

2人が幸せそうに微笑んでいるから、私も一緒に笑顔でいるけれど、

2人のことは大好きだけど、大好きな兄様を取られてしまったようでちょっと寂しかった…。


2人の結婚式は盛大に執り行われた。
白騎士さんやレオナさん、ギルダさんはもちろん、タキネン村の人たちやポポロクロイス中の人たちが
2人を祝福してくれた。


「兄様、ナルシアさん、おめでとう。」

私はそれしか言えなかった。





年月が過ぎ、兄様とナルシアさんの間に男の子が誕生した。

ピノンと名づけられたその子は、すくすくと成長し、とても素直なよい子に育った。

ちょっと頼りない部分もあったけれど、ピノンは兄様にそっくりだった。

慕ってくれるピノンが可愛かった。





「ねぇねぇ、エレナおば…おねーさん、このお花はなんて言うお花なの?」

「これはね…。」


兄様とナルシアさんは公務に忙しく、ピノンはよく私の部屋へ来ていた。
お花の名前を聞いてみたり、絵本を読んでくれと言われたり、
たまに城下町へ連れて行って散歩することもあった。

目に映る物全てが新鮮で、全てが謎なピノンは何かあれば私に聞いてきた。

そんなピノンがとても可愛いと思った。

私もいつかこんな可愛らしい子供が欲しい、と思うことも…あった…。

でも…

「お父さん!お母さん!」

「ピノン、こんなところにいたのか、あまり遠くに行ってはいかんぞ。」

「エレナさん、いつもピノンと遊んでくれてありがとう。」

「いえ、ピノンと一緒にいると楽しいですし。」

「あのねあのね、エレナおねーさんがね…!」


目をきらきら輝かせながら、父であるピエトロに、母であるナルシアに今あったことをいろいろと
話しているピノン。
それを微笑みながら聞いている兄様とナルシアさん…。

ほほえましい光景なのに、

大好きな兄様なのに、

大好きなナルシアさんなのに、

大好きなピノンなのに…。










なんだかすごく寂しかった…。











「兄様…いえ、ピエトロ王、私は旅に出ようと思います。」

兄様もナルシアさんも驚いていた。
ピノンは驚いている2人を見て、驚いていた。

「いろいろな国へ行って、いろいろなことを聞いて、私はもっと勉強して大きな人間になりたいのです。
もう全て用意してあります、このままごあいさつを終えたら出発しようと思っています。」


そう、いつか兄様とナルシアさんの結婚を心から笑顔で祝福出来るように。

そして私自身の心と向き合えるように。






「エレナがそこまで言うならがんばるといい。」
兄様の言葉に驚いていたのはナルシアさんだった。
たとえ反対されても私は行くつもりだった。

「…ピエトロ王がいいとおっしゃるのなら私も賛成しますわ、
それに、エレナさんが自身で決めたことですしね。ですが…。」

「…ナルシア王妃…な、何か?」


ナルシアさんは一呼吸おくと、にっこり微笑み私の手を取って言ってくれた。

「エレナさんの帰ってくる場所はここですから、私たちはいつでもエレナさんの帰りを待っています。
体には気をつけて、無理しないで下さいね。」

「ナルシア王妃…あ、ありがとうございます!」

嬉しくて思わず涙がこぼれた。

「エレナおねーさん、冒険のお話たくさんしてね、ぼく待ってるからね。
そして、いつかぼくも一緒に連れて行ってね。」

ピノンがわくわくしながら言う。
まだ幼いピノンにはよくわかっていないようだった。

「うふふ、そうね、ピノンがもう少し大人になったらね。」
ピノンの手を取りそう言った。


私は立ち上がり、王と王妃に敬礼して振り向きポポロクロイス城をあとにした。
























あれからどれくらい経ったのだろう。

いつのまにか、ダカート号に乗り船旅をしている。

いろいろな国へ行った。

いろいろな人たちに出会った。

いろいろな出来事があった。

危険なことも、楽しいことも、悲しいことも、たくさんあった。

その度に、私は少しずつ強くなっていった気がする。

兄様への想いがふっきれたわけではないけれど、この充実した日々が私は大好きだった。






「ボス〜!島が見えてきましたぜぇ!」

モンバの声で我に返る。

「よし!上陸するわよ!」

「ボス、何かお宝あるといいっスね。」






当初の目的と何か違う気はするけれど…。



☆★☆こつぶの戯言☆★☆

月の掟の冒険クリア記念(?)にエレナを主人公にしてみました。
エレナ、好きなんですけど、ゲームではあまり使わなかったなぁ…。




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